夕方の事務所で、パソコン画面に向かいながら検査成績書の様式をどう作るか考えている町工場の担当者

検査成績書の書き方。客先が見る項目と、社内で迷わない決め方

出荷は明日の朝。梱包はもう終わっている。

夕方、客先からメールが届く。「あわせて検査成績書もご提出をお願いします」。

前にも出したはずなので、パソコンの中を探す。似たようなExcelが3つ出てくる。ファイル名は「検査成績書_最新」「検査成績書_修正版」「検査成績書_A社用_これ」。どれが本物か、もう思い出せない。

いちばん新しそうなものを開いて、品番を打ち替えて、測定値を入れて、印刷して、判子を押す。気づけば30分近く経っている。梱包は終わっているのに、まだ帰れない。

この時間がかかっているのは、書類の書き方を知らないからではありません。 毎回ゼロから思い出しているからです。

検査成績書は、載せる項目さえ決まってしまえば、あとは数字を入れるだけの書類です。逆に言えば、項目が決まっていない限り、何回作っても毎回同じだけ時間がかかります。

だからこの記事でやりたいのは、立派な様式を作ることではありません。 ひな形を1枚に決めて、次から迷わなくする。そのための項目の絞り方と、決め方の話です。

結論:検査成績書は、①載せる項目を「品物」「測定値」「承認」の3つのかたまりに絞る → ②その3つを1枚のひな形にして、保存場所を1か所に決める → ③測定値の書き方(規格値・実測値・判定の並べ方)を先に決めておく → ④書く人と確かめる人を分ける — この順番で整えられます。先に決めるのは様式より項目です。 項目が決まっていない様式は、結局その場で足し引きされて、また増えていきます。

進め方は、こうです。

  1. 客先から来た指定様式があるかを、まず確認する
  2. 指定がなければ、自社のひな形を1枚だけ作る
  3. 載せる項目を「品物」「測定値」「承認」の3つに整理する
  4. 測定値の書き方(規格値・実測値・判定)を決める
  5. 書く人と承認する人を分けて、保存場所を1か所にする

いちばん効くのは2番です。「1枚だけ」と決めること自体が効きます。 客先ごとに作り分けはじめると、また同じ場所に戻ってきます。

何が起きているか — 検査成績書は「社外に出す証拠」の書類

まず、書類の立ち位置を整理しておきます。ここが混ざっていると、項目が決まりません。

検査成績書(けんさせいせきしょ)は、納める品物について「こう測ったら、こういう結果でした」と客先に示すための書類です。呼び方は客先によって変わります。検査記録、検査報告書、品質記録、インスペクションレポート。中身はだいたい同じものを指しています。

似た書類に、検査表(社内で検査するときに記入する用紙)があります。この2つは役割が違います。

検査表検査成績書
誰が見るか現場の自分たち客先
何のためかその場で合否を判断する納めた品物の裏づけを渡す
どこまで書くか測った値をそのまま全部客先が確認したい項目にしぼる
いつ作るか検査しながら出荷のとき

検査表は測るための紙、検査成績書は渡すための紙です。 同じ紙で兼ねている現場も多く、それ自体は悪いことではありません。ただ、兼ねているせいで「どこまで社外に出すか」が毎回判断になっているなら、分けたほうが楽になります。

社内の検査表そのものを整えたい場合は、検査表のつくり方、まず決めたい3つの項目のほうが近い話をしています。

なぜ毎回そろわないのか

成績書が毎回そろわない現場には、だいたい共通する事情があります。

このうち、いちばん時間を食っているのは4つ目です。測る手間ではなく、「どこを測って載せるか」を毎回考え直す手間のほうが重いことがあります。

ここは、後から出てきた話でもあります。以前は口頭や電話で済んでいた確認が、いまはメール添付のPDFや、客先のWeb上の受付ページへのアップロードで求められることが増えました。書式が残る形になったぶん、「毎回同じ形で出す」ことの価値が上がっています。

「客先は本当にこれを見ているのか」問題

正直なところ、成績書のすべての欄が毎回じっくり見られているわけではありません。届いてそのまま保管されることも多いはずです。

それでも項目をそろえておく理由は、後で何かあったときに、この1枚がこちらを守る側に立つからです。

たとえば納入から2か月後、客先から「この寸法が入っていない」と連絡が来たとします。手元に成績書があり、その寸法の実測値が残っていれば、話は「出荷後に何が起きたか」を一緒に探す方向へ進みます。記録がなければ、まず「そちらで測ったんですか」から始まってしまいます。

成績書は、疑われないための紙ではなく、話を早く前に進めるための紙です。 責任を押しつけ合う時間を減らすために書いておく、と考えると気が楽になります。

不良が出たときに範囲を絞る話は、不良が出た日に範囲を絞る。ロット管理・トレーサビリティの始め方と地続きです。

具体例 — 1枚を3つのかたまりに分けて考える

検査成績書の1枚を上中下の3段に分けた図。上段は品物、中段は測定値、下段は承認を表している
検査成績書は、上から「品物」「測定値」「承認」の3つのかたまりに分けて考えると項目が決めやすい

成績書の項目を決めるとき、いきなり列を並べようとすると迷います。先に、3つのかたまりに分けてしまいます。

かたまり1:品物 — どの品物の、どの分についてか

客先が最初に照合するのは、ここです。手元の注文書や納品書と突き合わせて、「うちの注文のこれだ」と確認できることが役割です。

迷いやすいのが図面の改訂記号です。ここが抜けていると、あとで図面が変わったときに「どっちの図面で作ったものか」が追えなくなります。1文字ですが、後から効く1文字です。

材質の裏づけを別紙で添える場合は、ミルシート(材料証明書)の見方と、後で困らない保管の仕方を合わせて見ておくと、添付の抜けが減ります。

かたまり2:測定値 — 何を、どう測って、いくつだったか

ここが本体です。そして、いちばん形がばらけるところでもあります。

1行に入れるのは、この5つで足ります。

項目
測定箇所外径
規格値(図面の指示)φ20.00 ±0.05
使った測定器マイクロメータ
実測値20.01 / 19.99 / 20.02
判定合格

実測値を何個載せるかは、先に決めておきます。 抜き取りなら「3個」「5個」と決めて、毎回同じ数にする。数がその都度変わると、見るほうも書くほうも判断が要ります。抜き取りと全数の線引きそのものは、抜き取り検査と全数検査の使い分け。迷った日の決め方を整理にまとめています。

もうひとつ、規格値を必ず一緒に載せるのが大事なところです。実測値だけ並んでいると、見るほうは図面を横に置いて自分で照合しなければなりません。規格値が隣にあれば、その場で「入っている」と分かります。見る人の手間を1つ減らすだけで、問い合わせが減ります。

使った測定器の欄も、面倒に見えて効きます。あとで値が合わないという話になったとき、「ノギスで測っていた」のか「マイクロで測っていた」のかで、話の進み方がまったく変わるからです。測定器そのものの信頼は測定器の校正と日常点検。ノギスとマイクロを信じて測るためにのほうに書きました。

測る箇所は、図面の全部でなくていい

図面に寸法が30か所あっても、成績書に30行必要とは限りません。載せる箇所は、次の順で選びます。

  1. 図面で公差が指示されている寸法(±がついているところ、幾何公差の指示があるところ)
  2. 客先から名指しで指定された箇所(「この穴位置は必ず」と言われたもの)
  3. 過去に不良やクレームが出た箇所
  4. 組み付けに直接効く箇所(はめあい、取り付けピッチなど)

この4つに当てはまらない寸法は、いったん外して構いません。外した結果、客先から「これも」と言われたら、そこで足せばよいだけです。 最初から全部載せると、次からもずっと全部測ることになります。

図面の公差の読み方に迷ったら、図面の公差の読み方。現場で読み違えないための見方を先に見ておくと、選ぶ基準がはっきりします。

かたまり3:承認 — 誰が測って、誰が確かめたか

最後に、責任の所在です。ここは2欄あれば足ります。

加えて、会社名・住所・作成日を入れておきます。

大事なのは、検査者と承認者を別の人にすることです。同じ人が測って同じ人が承認すると、書類としての意味が薄くなります。とはいえ、少人数の現場では難しいこともあります。その場合は「測った当日ではなく、翌朝もう一度目を通してから承認する」という形でも構いません。別人が難しければ、せめて時間を空ける。それだけでも見落としは減ります。

1枚にすると、どのくらい違うか

ある現場で、成績書1枚にかかっていた時間を測ってみたところ、こうなりました。

これまで(毎回、前回のファイルを探すところから)

前回ファイルを探す:8分
品番・注文番号を打ち替える:7分
測定値を入れる:6分
印刷・押印・PDF化:4分
合計 25分

ひな形を1枚に決めたあと

ひな形を開く:1分
品番・注文番号を打ち替える:3分
測定値を入れる:6分
印刷・押印・PDF化:4分
合計 14分

差は11分です。1枚あたりだと小さく見えます。ただ、月に20枚出している現場なら、こうなります。

11分 × 20枚 = 220分 = 月におよそ3時間40分

3時間40分は、現場の半日ぶんです。しかもこの時間は、夕方や出荷前日の、いちばん余裕がない時間帯に集中して発生しています。 同じ3時間でも、削れたときの効き方が違います。

減った11分のうち、大きいのは「探す8分」です。作業そのものではなく、どれが正しいか分からない時間が消えています。

影響 — 様式が決まると、書類が人から離れる

ひな形を1枚に決めると、現場では次のようなことが起きます。

1. 出荷前日に慌てなくなる

いちばん直接的な変化です。成績書は出荷の直前に作ることが多く、そこは工程がいちばん詰まっている時間帯です。ここで14分ではなく25分かかると、その差がそのまま残業になります。

2. 書ける人が増える

項目が決まっていて、測定値を入れる場所が決まっていれば、検査した人がそのまま書けます。これまで「成績書はあの人」になっていたのが、分担できるようになります。

これは休みの取りやすさに直結します。少人数の現場では、「その人がいないと出荷できない書類」を1つずつ減らしていくことが効きます。

3. 客先からの問い合わせが減る

規格値と実測値が並んでいて、測定器が書いてあって、承認者の欄が埋まっている。この3つがそろっていると、客先の受入担当は自分の手元で判断できます。確認の電話が減るのは、相手の手間を減らした結果です。

受入側がどこを見ているかは、受入検査で材料・部品の不具合を早めに見つけるコツを裏返して読むと分かりやすいところがあります。

4. 工程監査のときに、そのまま出せる

客先の工程監査では、たいてい「直近の成績書を見せてください」と言われます。様式がそろっていて、保存場所が1か所なら、その場で出せます。監査のために準備するのではなく、日々の形がそのまま答えになるのが理想です。準備の流れは客先の工程監査を受ける前に。準備と当日の受け答えの整え方にまとめました。

5. 測る箇所が固定されて、検査そのものも早くなる

意外なところですが、成績書の行が決まると、測る箇所も決まります。「今日はどこを測ろうか」がなくなるぶん、検査自体が数分早くなります。QC工程表と成績書の行をそろえておくと、この効果がもう一段はっきりします(QC工程表の作り方。検査ポイントを決める最初の一歩)。

明日やること — ひな形を1枚に決める5つの手順

手順1:客先の指定様式があるか確認する

最初にこれをやります。指定様式がある客先で自社様式を使うと、作り直しになります。

確認するのは、この3つです。

なお、業界によっては提出書類の様式や記載事項が客先側で細かく定められていることがあります。自動車、医療機器、航空、食品関連などに納める品物では、客先の要求事項が最優先です。この記事の項目は、指定がない場合の出発点として読んでください。判断に迷う場合は、客先の品質担当に直接聞くのが最短です。

手順2:ひな形を1枚だけ作る

指定がない客先ぶんは、1枚にまとめます。客先ごとに作り分けたくなりますが、最初は我慢したほうが続きます。

作り方は、Excelでもワープロでも構いません。決めるのは中身より、置き場所と名前です。

3つ目が守られないと、また「最新はどれ」が始まります。ひな形ファイルを読み取り専用にしておくと、うっかり上書きが防げます。

手順3:3つのかたまりの項目を埋める

さきほどの3つを、実際に並べます。

上段(品物)

| 客先名 | 品番・品名 | 図面番号・Rev. | 注文番号 | 数量 | 材質 | ロット番号 | 納入日 |

中段(測定値)

| 測定箇所 | 規格値 | 測定器 | 実測値1 | 実測値2 | 実測値3 | 判定 |

下段(承認)

| 会社名・住所 | 作成日 | 検査者 | 承認者 |

中段の行数は、5行から8行あたりを目安にします。多すぎると毎回埋めきれず、空欄が並ぶ成績書になります。空欄のある成績書は、見る側にいちばん不安を与えます。

手順4:測定値の書き方を決めて、書き込んでおく

ひな形の中に、記入例を1行だけ入れておきます。これが効きます。

外径 / φ20.00 ±0.05 / マイクロメータ / 20.01・19.99・20.02 / 合格

決めておきたいのは、この4つです。

4つ目を決めておくと、空欄が消えます。外観や機能のように数字にならない項目こそ、何をもって良しとしたかを一言書いておくと、後から効きます。判断のそろえ方は良品か不良かで迷う日に。限度見本で判断をそろえる手順が近い話です。

手順5:書く人と確かめる人、保存場所を決める

最後に、運用のところを決めます。紙1枚に書いて、ひな形と同じ場所に置いておけば十分です。

最後の「いつまで」は、決めずに全部残している現場が多いところです。全部残すこと自体は悪くありませんが、決めていないのと、決めて残しているのとでは、監査で聞かれたときの答えやすさが違います。

なお、取引に関する書類の保存については、取引形態や業種によって従うべきルールが異なります。客先との取り決めや、加入している業界団体の指針がある場合はそちらが優先です。判断に迷う内容であれば、商工会議所や中小企業の支援機関の窓口に一度相談してみてください。この記事では実務の整理までを扱っています。

検査成績書を整えるチェックリスト(コピーして使えます)

今週やること

項目を決めるときに確認すること

測る箇所を選ぶときに確認すること

書き方を決めるときに確認すること

運用で決めておくこと

深追いしない目安

迷ったときの原則

よければ、こちらも

朝の明るい事務所で、そろった様式の検査成績書を手に、検査者と承認者が並んで内容を確認している場面

検査成績書に時間がかかっていたのは、手を抜いていたからではありません。その都度、いちばん正しい形を考え直していたからです。前回のファイルを開いて「これでよかったかな」と迷うのは、雑にやっていない人だけがする迷い方です。

ただ、その迷いを毎回くり返す必要はもうありません。一度決めてしまえば、次からは数字を入れるだけになります。決めるのは1回、使うのは何百回です。

今日、直近で出した成績書を1枚だけ開いてみてください。そこにある項目を、「品物」「測定値」「承認」の3つに振り分ける。それだけで、明日作るひな形の下書きになります。

そして、そこに並んでいる数字は、あなたの工場が測った本物の値です。測った人がいて、確かめた人がいて、この1枚がある。 その事実は、様式が整っていなかった今日までのぶんも、ちゃんと残っています。

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