夕方の町工場で、作業着の若手作業者が少し言いにくそうに現場リーダーに話しかけ、リーダーが壁の予定表の前で穏やかに耳を傾けている情景

少人数の町工場でも休みを取りやすく。多能工と休みの予定表の工夫

金曜の夕方、片付けをしているところに、旋盤担当の人が声をかけてきました。 「すみません、再来週の水曜、子どもの参観日で……休んでも大丈夫ですか」

「もちろん」と言いたい。 でも頭の中では、もう納期表をめくっています。あの日はリピート品の段取りがある。あの段取りができるのは、この人だけ。 少し間が空いてしまって、相手の顔が「やっぱり無理ですよね」に変わっていくのがわかる。

休みにくい現場は、休ませたくない会社だからそうなっているわけではありません。 たいていは、「その人がいないと止まる仕事」と「休みが直前に決まること」が重なっているだけです。

この記事で一緒に整理したいのは、人を増やす話ではありません。 今いる人数のままで、「休みたい」と言われたときに、間を空けずに「いいよ」と返せる段取りです。

結論:休みを取りやすくするには、①「その人がいないと止まる仕事」を書き出す ②その仕事に、7割できる二番手を1人ずつ育てる ③休みを、仕事より先に月の予定表に置く。全部の工程で多能工をそろえなくて大丈夫です。止まると困る工程から、1つずつで十分です。

進める順番は、こうです。

  1. 「この人が休むと止まる仕事」を書き出す
  2. 止まる仕事ごとに、二番手を1人決める
  3. 二番手は「7割できる」を目標に、ペア作業で育てる
  4. 休みを月初に先に予定表へ入れ、仕事の段取りと突き合わせる
  5. 休む前日に、3行の引き継ぎメモを残す

何が起きているか──休みにくさには、3つの重なりがある

少人数の現場で休みが取りにくいとき、だいたい次の3つが重なっています。

1つ目は、「代われる人がいない仕事」がある。 あの機械の段取り、あのお客さんの検査、あの材料の発注。長く担当してきた人ほど、その人にしかできない仕事を抱えています。本人もそれを知っているので、「自分が休むと止まる」と思って言い出せません。

2つ目は、休みが直前に決まる。 「来週休みたい」と言われてから慌てて段取りを考えると、たいてい動かせない仕事にぶつかります。休みの話が、毎回「調整のお願い」になってしまう。

3つ目は、「休むと申し訳ない」空気がある。 誰かが休んだ日に、残った人がばたばたする。それを見ているので、次の人はますます言い出しにくくなります。誰も悪くないのに、遠慮の連鎖が起きます。

1つ目と2つ目は、仕組みで小さくできます。そして、そこが小さくなると、3つ目の空気も自然と軽くなっていきます。

なお、年10日以上の年次有給休暇がある人には、年5日を取ってもらうことが会社の義務になっています(2019年4月から)。ただ、この記事では「義務だから」より先に、休みたいときに気持ちよく休める現場にすることを考えていきます。そのほうが、結果として5日も自然に取れるようになります。

「この人が休むと止まる仕事」を書き出す

休みを取りやすくする3つの段階を左から右へ並べた説明図。左はリーダーがホワイトボードの表に印をつけている場面、中央はベテランの横で若手が機械の段取りを練習している場面、右は作業者が壁の月間予定表に休みの印をつけている場面
止まる仕事を書き出し、二番手を育て、休みを先に予定に入れる。この順番で進めると、「休みたい」に間を空けずに返せるようになる

最初にやるのは、「この人が休むと止まる仕事」を書き出すことです。

紙を1枚用意して、人の名前を縦に並べ、その人が休んだ日に止まってしまう仕事を横に書いていきます。たとえば5人の現場なら、こんなふうになります。

人この人が休むと止まる仕事いま代われる人
Aさん(旋盤)リピート品の段取り、ねじ部の測定いない
Bさん(マシニング)新規品のプログラム修正Cさん(簡単なものなら)
Cさん(組立・検査)出荷前の最終検査いない
Dさん(パート)——
リーダー見積、材料の発注いない

ポイントは、「できる・できない」ではなく「止まるかどうか」で書くことです。 その人がいなくても、ほかの人が少し遅れながら回せる仕事は、ここには書きません。書くのは、その人が休むと、その日まるごと止まる仕事だけです。

書き出してみると、「いない」の欄は思ったより少ないことが多いです。全部の仕事が属人化しているように感じていても、実際に止まるのは3〜5個くらい、という現場が少なくありません。そこが、手を付ける場所です。

すでにスキルマップがあるなら、◎が1人しかついていない列がそのまま候補になります。作り方は スキルマップのつくり方、多能工化はまず一枚の表から にまとめています。

二番手を育てる──目標は「7割できる」で十分

「いない」の欄ごとに、二番手を1人ずつ決めます。

ここで大事なのは、二番手に本人と同じ腕を求めないことです。 目標は「本人がいない日に、7割の仕事を回せる」くらいで十分です。たとえば旋盤のリピート品なら、

という線引きで、休みの日を止めずに済むことが多いです。残りの3割は、「本人が戻ってからやる仕事」として予定表に回せばいい。

育て方は、週1回のペア作業から

二番手の育て方で、いちばん続けやすいのはペア作業です。

  1. 見てもらう(1〜2回目):本人がいつもどおり段取りをして、二番手は横で見る。本人は、手を動かしながら「ここで何を見ているか」を口に出す。
  2. やってもらう(3回目以降):二番手が手を動かし、本人は横で見守る。口を出すのは、危ないときと、明らかに違うときだけ。
  3. ひとりでやってもらう(慣れてきたら):本人が別の仕事をしている日に、二番手が主担当で回してみる。困ったら本人に聞いてよい。

頻度は、週に1回、1つの段取り分くらいが目安です。1回30分なら、月に2時間ほどになります。本人の手が止まる時間は、思ったより大きくありません。

3つ目の「ひとりでやってもらう日」を、月に1回は予定に入れておくと安心です。本人が会社にいる日に一度試しておくと、休みの日にいきなり任せるより、ずっと気が楽です。

段取りの手順を動画や手順書にしておくと、二番手が見返せるので覚えが早くなります。動画の撮り方は ベテランの段取りを動画で残す。技能伝承の始め方を整理、手順書は 作業標準書の書き方、現場が実際に使う一枚に整えるには が使えます。

本人に、先に理由を話しておく

二番手を育てる話は、本人からすると「自分の仕事を取られる」ように聞こえることがあります。 始める前に、「あなたが安心して休めるようにしたい」と、理由を先に伝えておきましょう。「代わりを作る」ではなく、「休める状態を作る」。目的が本人のためだとわかると、教えるほうにも気持ちが入ります。

休みを、仕事より先に予定表へ置く

二番手が育ってきたら、次は休みの決め方を変えます。

今まで「休みたい日が来たら、仕事と調整する」だったものを、「先に休みを置いてから、仕事の段取りを組む」に入れ替えます。

1. 月初に、翌月の休み希望を出してもらう

月の最初の週に、翌月の休み希望を予定表に書いてもらいます。ホワイトボードでも、紙のカレンダーでも構いません。 有給の5日を確実に取るなら、1人あたり2か月に1日くらいを目安に、先に置いてしまうのも一つの方法です(1年で6日になります)。

2. 休みが重なる日を、先に見ておく

予定表に休みが並んだら、同じ日に「いない」の仕事が重なっていないかを確認します。 Aさんと二番手が同じ日に休む、という並びだけは避けたいので、そこだけ相談して1日ずらしてもらいます。それ以外は、できるだけ希望どおりにします。

3. 仕事の山と突き合わせる

休みが決まったら、その月の仕事の予定と並べます。 休みの日に、二番手では回しきれない仕事(残りの3割)が入っていないかを見て、入っていたら前後の日に寄せます。来週・再来週の忙しさを先に読む方法は 来週の忙しさを先に読む、負荷山積み表のつくり方と使い方 にまとめています。

こうしておくと、冒頭の「再来週の水曜、休んでも大丈夫ですか」にも、予定表を見て「いいよ、その日は二番手で回せる」とすぐ返せるようになります。

休む前日の、3行の引き継ぎメモ

最後は、休む人がやることです。前日の帰りに、二番手あてに3行だけ書いて残してもらいます。

3行目の「困ったら止めてOK」が大事です。この一言があると、二番手は無理をせずに済みますし、休んでいる本人も、電話を気にせずに過ごせます。

子どもの発熱のような、前日にわからない休みもあります。そういう日の、止める仕事と通す仕事の決め方は 急な欠勤で人が足りない日。何を止めて何を通すか、決める順番 にまとめています。

影響──休める現場は、止まらない現場でもある

二番手がいる工程は、休みの日だけでなく、急な病気、ケガ、退職のときにも止まりません。 休みを取りやすくする工夫は、そのまま「ある日突然、仕事が止まる」不安を減らす工夫でもあります。

人の面でも、休みの取りやすさはじわじわ効いてきます。 「この会社は、言えばちゃんと休める」と感じられることは、長く働き続けてもらう理由のひとつになります。求人のときにも、「二番手がいるので、希望の日に休みやすいです」と具体的に書けるようになります。書き方は 少人数の町工場で応募が来る、求人募集文の書き方 をどうぞ。

かける手間は、書き出しに30分、ペア作業が週に30分、予定表の確認が月初に15分ほど。 それで「休んでいいですか」の会話から、気まずい間が1つ減るなら、悪くない使い方だと思います。

明日やること

明日、現場に出たら、この順番で試してみてください。

全部やらなくて大丈夫です。 まずは、止まる仕事を1つ書き出して、二番手を1人決める。それだけで、次の「休みたい」への返事が少し変わります。

休みを取りやすくする多能工・予定表のチェックリスト

12個そろっている現場は、そう多くありません。 1つ目に丸がつけば、もう始まっています。次は、二番手を1人決めるところから進めてみてください。

よければ、こちらも

平日の朝の町工場で、二番手の若手作業者が旋盤の前で落ち着いて段取りをしていて、少し離れたところで現場リーダーが安心した笑顔で見守っている情景

「休んでもいいですか」と聞かれて、すぐに「いいよ」と言えなかった日は、少し自分が嫌になります。 本当は、休んでほしいと思っているのに。

でも、少ない人数で納期を守りながら、一人ひとりの事情にも気を配ってきたこと自体が、もう十分に大変なことです。休みにくさは、気持ちが足りないからではなく、段取りがまだ追いついていないだけです。

休みやすい現場に必要なのは、人を増やすことより先に、止まる仕事の書き出しと、7割できる二番手と、先に置く休みです。 明日は、止まる仕事を1つだけ、紙に書き出してみてください。次の「休みたい」に返す声が、きっと少し軽くなります。