夕方の町工場の検査台で、ノギスで測った部品と図面を見比べ、出荷していいものか考え込む品質担当者

特別採用(特採)の判断と記録の残し方。不適合品を流す前の手順

金曜の夕方、検査で穴の位置がほんの少しだけ図面を外れた部品が見つかった。 作り直すと、月曜の朝の納品には間に合わない。測り直しても、やっぱり外れている。

「このくらいなら、使う側では困らないはずなんだけど……」。 そう思いながら、検査台の前で手が止まってしまうこと、ありませんか。

その迷いは、品物とお客さんの両方を大事にしているからこそ出てくるものです。 この記事では、こういうときに選べる「特別採用(特採)」を、黙って流すのではなく、きちんと手順を踏んで使うための順番を一緒に整理します。

結論:特採は「黙って流す」の反対側にある手続きです。①社内で「相談してよい品物か」を判断する、②客先に事情を書いて伝え、承認を書面(メール可)でもらう、③現品と記録に「特採」の印を残し、再発防止とセットで閉じる、の3段階で進めます。今日できるのは、特採の相談を誰が判断し、誰が客先に連絡するかを決めるところまでで十分です。

特別採用(特採)とは、承認をもらって使ってもらうこと

特別採用(特採)は、図面や規格から外れた品物(不適合品)について、客先に事情を説明し、承認をもらったうえで、そのまま使ってもらうことです。会社によっては「特採申請」「特別採用申請」「逸脱許可」などと呼びます。

大事なのは、決めるのは自社ではなく、使う側の客先だという点です。 「たぶん大丈夫」と自社で判断して出荷するのは、特採ではありません。承認をもらう手続きを踏むから、規格外れの品物を出しても信頼を損なわずに済みます。

不良が出たときの選択肢(手直し・作り直し・特採・廃棄)の比べ方は、手直しか作り直しか。不良が出た日の判断の順番と記録の残し方 にまとめています。この記事は、その中の「特採」を選ぶときの中身を掘り下げます。

何が起きているか:特採は「頼みづらい」と「頼みすぎ」の両方でつまずく

特採の進め方が決まっていない現場では、だいたい次のどれかが起きます。

どれも、担当者の気持ちが弱いから起きるのではありません。「誰が判断して、何を書いて、どこに残すか」が決まっていないから、その場の人がひとりで抱えることになるのです。

具体例:穴位置が0.02mm外れた50個

たとえば、こんな場面です。

ここで品質担当者がやったのは、12個を良品と分けて置き、上司に見せてから、客先の品質担当に電話をしたことでした。 「穴位置が上限から最大0.02mm外れたものが12個あります。相手部品のボルト穴に余裕があれば、組立に支障はないかもしれません。測定結果を送るので、判断していただけますか」。

客先からの答えは「組立側の穴に余裕があるので、今回の12個に限り使用可。測定結果を添えて、品物に特採品と分かる表示をして納めてほしい」。 担当者は、そのやり取りをメールでも送ってもらい、残り38個と分けて出荷しました。

断られることも、もちろんあります。そのときは作り直しや分納の相談に切り替えます。 それでも、聞いて断られるのは、黙って出して後から見つかるより、ずっと軽く済みます。

影響:手順があると、何が楽になるか

逆に、手順がないまま特採を重ねると、承認の範囲があいまいになりがちです。「前もいいと言われたから」と次のロットに持ち越すと、それはもう承認のない出荷になります。

特採を進める手順:社内判断から記録まで

左から右へ4つの場面が並ぶ説明図。検査台で部品と図面を見比べる場面、事務所で客先に電話する場面、客先の担当者がメールの画面を確認してうなずく場面、特採品の札を付けた箱を良品と分けて棚に置く場面
特採は「社内で判断する → 客先に相談する → 承認をもらう → 分けて表示する」の順番で進める

一度に全部を整えなくて大丈夫です。順番に見ていきましょう。

① 社内で「相談してよい品物か」を判断する

まず、不適合品を良品と分けて置きます。札を付け、置き場所を分けるところまでは、検査担当がその場でできます(やり方は 不良品の識別・隔離のやり方 を参考にしてください)。

そのうえで、特採を相談するかどうかは上司や品質責任者など、決めておいた人が判断します。見るのは次の4つです。

この段階で「これは相談せず作り直す」と決めるのも、立派な判断です。

② 客先に事情を書いて伝え、承認を書面でもらう

相談は電話からで構いません。ただし、承認は必ずメールや書面で残してもらいます。口頭でOKをもらったら、「確認のため、内容をメールでお送りします」と自分から送り、返信をもらう形でも大丈夫です。

客先に伝える中身は、次の表の項目がそろっていれば足ります。客先に決まった申請書の様式があれば、そちらに合わせます。

書く項目書き方の例
品名・図番・ロット(製番)ブラケットA/図番 BK-102/ロット 1021-03
数量50個中12個(不適合分のみ)
不適合の中身取付穴位置 図面 25.00±0.05mm に対し、実測 25.06〜25.07mm
原因の見立て段取り時の基準面の当たり不足(調査中の部分はそう書く)
使用への影響の見立て相手部品の穴の余裕次第で組立可能と考える(判断は客先に仰ぐ)
お願いしたいこと今回の12個に限り、そのまま使用可否の判断
再発防止段取り後の初物で穴位置を測る手順を追加
申請者・日付品質担当 山田/2026-10-21

返ってきた承認では、承認した人の名前と日付、認められた数量、条件(表示のしかた・添付書類など)を確認します。ここがあいまいなら、遠慮せず聞き直して大丈夫です。

③ 現品と記録に「特採」の印を残し、閉じる

承認をもらったら、出荷と記録で次の3つを行います。

最後に、申請書に書いた再発防止を実際に動かします。特採は、品物を出したところでは終わらず、同じ不適合を止めたところで閉じる、と考えておくと、次の特採が減っていきます。

同じ寸法で特採が何度も続くときは、工程の見直しに加えて、図面の公差そのものを客先と相談する道もあります。そのときも、毎回の特採の記録が話し合いの材料になります。

特別採用(特採)を進めるときのチェックリスト

全部にチェックがつかなくても大丈夫です。まずは上の2つ、分けて置くことと、判断する人を決めることから始めてみてください。

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迷ったときに相談できる手順があれば、ひとりで抱えなくていい

規格から外れた品物を前に迷うのは、品物にもお客さんにも誠実でいたいからです。 その迷いを、検査台の前でひとりで抱え続ける必要はありません。

分けて置く。決める人に見せる。お客さんに聞く。書いて残す。 今日は、特採の相談を誰が判断するかを、ひとつ決めるところまでで十分です。次に検査台の前で手が止まったとき、その一つの決めごとが、あなたの背中を支えてくれるはずです。